想像力を忘れてしまった大人のための絵本 | [書評]ちいさなちいさな王様
ある日突然現れたちいさな王様と、サラリーマンの男の物語
ある日、サラリーマンの男のもとにちいさな王様が現れます。王様は男の人差し指くらいの大きさで、好物はクマの形をしたグミで、本棚と部屋の間の隙間から出てきます。
王様のところでは、生まれた時は大きく何でも出来て、成長するにしたがって体はどんどん小さくなっていろいろなことを忘れていってしまうそうです。そんな不思議な王様と、とても常識的で、ちょっと疲れたサラリーマンの男の物語です。小さく生まれてだんだんと大きくなっていく男と、大きく生まれてだんだんと小さくなっていく王様という、ある種正反対の二人が、互いに理解を深め友情を深めていく様子に心温まります。
根拠はないけれど、なぜか納得させられてしまう王様の言葉
ちいさな王様はサラリーマンの男に大きく生まれるとはどういうことかと聞かれ、それに対して自信満々にこう答えます。
おれはだな、ある朝、ふいにベッドで目覚めたのだ。それから仕事をしに王子の執務室にいったのさ。実に、単純なことじゃないか。
根拠はないはずなのに、なぜか王様の言葉には説得力があります。その説得力は、本書に登場するサラリーマンの男はもちろん、読み手をも納得させる力があるのではないかと思います。
本書を読み始めた時には小さな王様の存在自体が不思議だと思っていたはずなのに、読み進めていくうちに、いつの間にかその存在に対して違和感を覚えなくなっていて、すっかり物語に引き込まれていたことを実感させられます。
チャーミングな王様
本書に登場する王様は、とてもチャーミングなキャラクターです。
おまえは王様でも何でもない。おまえはおれの言うことに従わなきゃいけないのだ!
などといってサラリーマンの男を困らせ、そうかと思えば
おれは、おまえの小さな王様だぞ。
おまえが、おれにいてほしいと思ったから、おれはこうしているのだぞ
などと切なくなるほど可愛らしいことを言うこともあります。気まぐれで愛らしい、ちいさな王様。自分のところにも、こんな王様が現れてくれないだろうかと考えずにはいられなくなる物語です。