伊坂幸太郎らしい悪徳代行屋のおもしろ物語 | [書評]残り全部バケーション
伊坂幸太郎らしい伏線
この本は短編集という括りですが、幾つかのパートに分かれていて、それぞれ登場人物がつながっています。過去だったり、ちょっと進んだところだったり。主要人物は一緒でそれぞれを深堀していくことで人物像が浮かび上がっていきます。そして最後のオチが伊坂幸太郎らしく、結末は読者に委ねているところが、物語全体を引き締めるのに一役買っています。
読んでいるうちは奇妙だったり伏線に見えない意味のない描写なのに、実は全部つながっていた感が心地よいです。
独特な雰囲気のセリフ回し
友達になろうよ。ドライブとか食事とか。
序章で打つメールの文面ですが、これが後々数奇な物語につながっていきます。このほかにも、それぞれのキャラクターに合う小気味よく残るセリフ回しが魅力を引きたてています。少しニヒルで、普段では言いそうにないセリフですが、それがまた格好良い。セリフ一つ一つも伏線になっている技巧も散りばめているので、伏線を回収するシーンでは一気に読んでしまいます。
本書の題でもある「残り全部バケーション」は、全く異なる状況で異なるキャラクターが吐いています。どちらもそのセリフがらしいタイミングで出ているので、なぜかとても心地よい笑いが出てきます。そういったニヤッとできるようなセリフ回しが随所にちりばめられています。それだけでこの小説の全体をユーモアで包んでいます。
感情移入しやすい語り口
各章で一人称視点で語られていますが、章によって違う人物による視点になります。だからこそ、それぞれの視点でのそれぞれのキャラクターからの感情が分かり、多角的な視点を持てる書き方になっています。どうしてそう思うのか?のバックグラウンドもしっかりしていて、一人称視点のキャラクターに感情移入しやすい構成になっています。
バラバラの章だと思っていた物語が最後につながっていく様が非常に面白く、白熱します。
特に主要キャラである岡田と溝口の関係性と性格と事象が後半になって重なり合って期待を裏切らない流れに吸い込まれていく感じは中々味わえない読み応えだと思いました。