涙溢れる感動の家族の物語 | [書評]星やどりの声

星やどりの声
著者: 朝井 リョウ
ISBN:4041013356 / 発売日:2014-06-20
出版社.: KADOKAWA/角川書店

家族全員にとって大きな存在である亡き父親

父親はすでに他界してしまっていますが、物語は亡き父を中心として進んでいくと言っても過言ではない程、その存在はいまだに家族のそれぞれにとって大きなものです。彼らの父親はそれぞれの思い出として物語の所々に登場しますが、あまり頻度は多くありません。

けれど、一見父親とは関係ないような彼らの行動や言動も、実は父親とは切っては切り離せません。悩みの原因が父親であったり、目標が父親のためであったりします。そんな様子から、明るく過ごしているようでいても、まだ家族の中で父親の不在が大きな傷跡として残っていて完全には乗り越えられていない、そんな暗さが窺い知れます。

大切な家族の死を乗り越えることは、誰にとっても簡単なことではないでしょうし、時間がかかることでしょう。この家族もまた、元気で暮らしているようでいながら亡き父親の存在を心の中で未だに強く感じながら、それぞれがそれに必死で耐えているような、そんな生々しい苦しみを感じさせます。

それぞれの思いを抱えながら、家族として生きるということ

父亡き後の家族の再生という非常に重い題材ではありますが、ただ暗く悲しい物語で終わらないのは、この家族の絆によるところだと思います。この物語に登場する家族は今どき珍しい6人姉弟です。

社会人でしっかり者の長女、就職活動中のちょっと頼りない長男、見た目はそっくりだけど性格は正反対の双子の二女と三女、やんちゃでお調子者の高校生の次男、そしてまだ小学生だけど大人びた三男。それに加えて、家事をしながら自営業の純喫茶を一人で切り盛りしている母親、そして今は亡き父親という家族構成です。

物語は一章ずつ、彼ら一人一人にスポットライトを当てて進められていきます。一人一人が悩みや問題に直面するのですが、必死で悩みながら、また周りの人に助けられながら問題を解決していきます。言葉に出来ない時でも誰かが異変に気付いて互いに声を掛け合い支え合う、みんなで助け合う、簡単なようで難しいこのやり取りが、家族の絆を深めていく様子に心温まります。

家族の絆の物語

「ほしやどり」という純喫茶は、母が一人で切り盛りする純喫茶の名前ですが、姉弟たちが手伝いに来たり、ご飯を食べに来たりと、何かと家族が集まる場所でもあります。お店には星の形の天窓があり、これは父親が生前に自ら工事して取り付けたものです。

どうしてそんなもの作ってるの?きょうだいの誰が効いても父はこう答えるだけだった。

いつかわかるよ。

いつか、わかる。

この意味がわかったとき、涙が溢れて止まりませんでした。この世にいなくなってしまっても永遠に忘れることの出来ない存在について、深く考えさせられる物語です。

星やどりの声
著者: 朝井 リョウ
ISBN:4041013356 / 発売日:2014-06-20
出版社.: KADOKAWA/角川書店

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