ピアニスト 辻井伸行さんの母が綴るCDブック | [書評]今日の風、なに色?―全盲で生まれたわが子が「天才少年ピアニスト」と呼ばれるまで


ピアニスト辻井伸行さんの演奏CD付きブック

ヴァン・クライバーン国際ピアノコンクールで優勝し、今では世界中で活躍している辻井伸行さんのお母さまの子育て本です。母のいつこさんが、息子、伸行さんの節目節目で演奏した曲を10曲ほど収録したCDがついていて、目でそして耳で楽しむことができます。

本書の題名になっている『今日の風、なに色?』は、目の見えない伸行さんが母に尋ねた言葉だそうです。この感受性豊な言葉にいつ子さんはいたく心を揺さぶられたそうです。目が見えないことに代わって、神様から与えられたさ才能はピアノの技術だけではないのですね。

もちろん技術だけで出来ても、ピアノで聴衆を感動させる演奏はできません。それぞれの曲に、いつこさんが文を書いていますので、読むと同時に耳でも味わえるようになっています。

絶望があったから、希望が輝いて見える

伸行さんは、産婦人科医のお父さまとお綺麗なお母さまの間に生まれた男の子。息子の目が見えないとわかった時のお母さんの苦悩は計り知れなかったと想像できます。この本の中にも、その胸中が赤裸々に綴られています。母、いつ子さんは「絶望があったから、希望が輝いて見えるんです」と語っています。

絶望と不安しかなかった新米の母親だった私に、一筋の光を与えてくれたのは、音楽でした。その光の差す方に向かって、伸行と私は二人三脚で歩いてきました。そして、その時々で涙があふれるような感動を、何度も味わせてくれたのも音楽でした。

2歳で音階を聞き分けた神童

目が見えないから、と与えた音の出るおもちゃのピアノ。たった2歳で、伸行さんはいつ子さんが口ずさんだ曲をピアノで弾き始めました。音階を聞き分けることができたのです。

そのピアノで遊ぶ様子から、才能を感じ取り、それを伸ばす環境を与え、実際にあのように透き通ったピュアな音を紬ぐピアニストになるために支えていった、いつ子さんの愛情深さには感動して、時おり涙をしてしまいました。ピアノが弾けなかったから、ピアニストの世界を知らなかったから、先生方に技術的なことすべてをお任せできた、という下りにも子育てへの教訓が見えてきます。

たくさん添えられたプライベートの写真には、くったくのない笑顔の伸行さんが幸せそうに写っており、幼少期からピアノを根気よく教えた先生方や、いつ子さんを支えたご主人の存在の大きさが感じられます。愛情深く育てること、子どもの道しるべをどのようにして示すのか、この本は感動を持って教えてくれます。


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